by 野田 稔(経営学者)
キャリアアンカーという考え方がある。これは、エドガー・H・シャインという心理学者が提唱したもので、「どうしても犠牲にしたくない、また本当の自己を象徴するコンピタンスや動機、価値観」を言う。
彼は8つのキャリアアンカーがあることを示した。
・専門・職能別コンピタンス
・全般管理コンピタンス
・自律・独立
・保障・安定
・起業家的創造性
・奉仕・社会貢献
・純粋な挑戦
・生活様式リーダーは、部下がどのようなアンカーを持った人間かを認識し、そのアンカーに沿った形で期待しなければならない。
社会で働いていると、だんだん職業上の自己イメージが出来上がってきます。
職業選択や変更はどのように行われ、また、それらはどのように行われるべきなのかについて、一連の考え方を示すキャリア理論では、この自己イメージのことを「キャリアアンカー」と呼んでいます。
キャリアアンカーのアンカーとは、船の錨(いかり)という意味です。
船は錨を下ろせば、たとえ海が荒れていもその場所に停まることができます。つまり、船にとって錨は、海上に停まるための拠り所になります。
それと同様に、キャリアアンカーがあれば、社会という荒波に揉まれたとしても、元いた場所に戻ってこれます。これは、たとえ転職をしたとしても、確立された自己イメージが個人のキャリアに影響を及ぼし続けるということです。つまり、キャリアアンカーは、自分が働く上で大切にしている拠り所として捉えることができるのです。
もう少し具体的にいうと、キャリアアンカーは、①自分は何が得意か?②自分は本当のところ何をやりたいのか?③何をやっている自分に意味や価値を感じられるのか?という3つの問いに対する答えが、複合的に組み合わさって出来ており、以下の8パターンに分けることができます。
専門・職能別コンピタンス:
自分が得意としている専門分野や職能分野での能力発揮に満足感を覚える。
全般管理コンピタンス:
組織内の責任ある地位に立ち、自分の努力によって組織の成功に貢献し、その結果、高い収入を得ることに喜びを感じる。
自律・独立:
組織の規則や手順、規範に束縛されない。自分のやり方、自分のペース、自分の納得する仕事の標準を優先する。
保障・安定:
安全で確実、将来を予測でき、ゆったりとした気持ちで仕事をしたいという欲求を優先する。
起業家的創造性:
自身で新しい組織、製品、サービスを生み出して、新しい事業を起こし、存続させ、経済的に成功させたいと強く意識する。
奉仕・社会貢献:
なんらかの形で世の中をもっとよくしたいという欲求に基づいてキャリアを選択する。
純粋な挑戦:
不可能と思えるような障害を克服する。解決不能と思われてきた問題を解決する、極めて手強い相手に勝つことが成功。
生活様式:
個人、家族、キャリアのニーズをうまく統合したい(単なるバランス以上のもの)。
ところが多くのリーダーは、部下は自分と同じようなアンカーを持っていると誤解しがちなのだ。
成果を上げている組織マネジャーには2つ目の全般的管理コンピテンスをキャリアアンカーとしている者が多い。つまり、人の上に立って組織を動かすことに喜びを感じるというタイプだ。
そのようなマネジャーは、部下も皆、全般的管理コンピタンスをアンカーとしていて、出世したがっているという仮説を持ってしまう。部下の成果に対しては出世をご褒美とするようになる。ところが部下もいろいろである。専門・職能別コンピタンス、つまり、専門家志向が強かったら、管理者としての出世がちっともご褒美にならないこともある。むしろ現場から離されることでやる気を失ってしまうだろう。専門家としてプレーヤーの道を究めたいという希望がはなはだしい場合は、転職をしようとするかもしれない。
それに気がつかないと、部下が会社を辞めても、なぜだか理解できない。「こんなに期待しているのに、なぜ辞めたのだ」と怒るかもしれないが、その期待が間違っている。つまりは期待錯誤であったわけだ。
だから一人一人のキャリアアンカーを理解して、こちらからの役割期待をちゃんと説明して説得するしかない。そこで決して手を抜いてはいけない。
キャリアアンカーは、個人の内的キャリアを表すのに有効な概念ですが、個人の内的キャリアの実現だけを追求しても、組織のニーズと調和することはできません。
また、一人ひとりが組織の要望に自分を合わせるばかりでは、個性が死んでしまうことになります。
そのため、個人の欲求と組織の要望をうまく調和させる手段として、一人一人のキャリアアンカーを理解し、組織の役割期待を説明する必要があるのです。
Reference:ダイヤモンド・オンライン、キャリアカウンセラー養成講座 text3(日本マンパワー)
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”So early in my life, I had learned that if you want something, you had better make some noise.