養老孟司「仕事というのは、社会に空いた穴」

by 養老 孟司(解剖学者)

(ニートなど働かない人を)調査をすると、働かないのは「自分に合った仕事を探しているから」という理由を挙げる人が一番多いという。

これがおかしい。20歳やそこらで自分なんかわかるはずがありません。中身は、空っぽなのです。

仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない、と言いたくなります。

仕事は自分に合っていなくて当たり前です。私は長年解剖をやっていました。その頃の仕事には、死体を引き取り、研究室で解剖し、それをお骨にして遺族に返すまで全部含まれています。それのどこが私に合った仕事なのでしょうか。そんなことに合っている人間、生まれ付き解剖向きの人間なんているはずがありません。

そうではなくて、解剖という仕事が社会に必要である。ともかくそういう穴がある。だからそれを埋めたということです。何でこんなしんどい、辛気(しんき)臭いことをやらなきゃいけないのかと思うこともあるけれど、それをやっていれば給料がもらえた。それは社会が大学を通して給料を私にくれたわけです。

生きている患者さんを診なくていいというのも、解剖に向かった大きな理由です。一番助かったのは、もうこれ以上患者が死なないということ。その点だけは絶対安心でした。人殺しをする心配がないからです。しかし患者さんを診るという行為から逃げ出しても、遺族の面倒だとか何とかもっと大変なことがありました。

社会、仕事というのはこういうものです。いいところもあれば、悪いところもある。患者の面倒の代わりに遺族の面倒を見る。全部合わせてゼロになればよしとする。

あとは目の前の穴を埋めていれば給料をくれる。仕事とはそもそもそういうものだと思っていれば、「自分に合った仕事」などという馬鹿な考え方をする必要もないはずです。NHKの「プロジェクトX」に登場するサラリーマンも、入社当初から大志を抱いていた人ばかりではないでしょう。

合うとか合わないとかいうよりも大切なのは、いったん引き受けたら半端仕事をしてはいけないということです。一から十までやらなくてはいけない。それをやっていくうちに自分の考えが変わっていく。自分自身が育っていく。そういうふうに仕事をやりなさいよということが結論です。(中略)

若い人が「仕事がつまらない」「会社が面白くない」というのはなぜか。それは要するに、自分のやることを人が与えてくれると思っているからです。でも会社が自分にあった仕事をくれるわけではありません。会社は全体として社会の中の穴を埋めているのです。その中で本気で働けば目の前に自分が埋めるべき穴は見つかるのです。

社会のために働けというと封建的だと批判されるかもしれません。「自分が輝ける職場を見つけよう」というフレーズのほうが通じやすいのかもしれません。しかしこれは嘘です。まず自分があるのではなく、先にあるのはあくまでも穴の方なのです。

Reference:「自分に合った仕事なんて探すな」 養老孟司先生の語る「働くってこういうこと」

人生をよりよく生きるために必要なTサイクルの8つの要素。そのうちの3つ、「自己承認」「他者承認」「自己効力感」から、人の悩みは、大きく3つのカテゴリー、「自己の悩み」「人間関係の悩み」「仕事・お金の悩み」に分けることができます(参考記事:「人が悩む3つの要素」「人が悩む3つの要素#2」)。

例えば、「自己の悩み」とは、自分の能力や健康のこと、「人間関係の悩み」とは、教育や交友、子育てのこと、「仕事・お金の悩み」とは、キャリアや給与のこと。

今回は、就活生に向けて、「仕事・お金の悩み」に関する名言をご紹介しました。





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”But what is happiness except the simple harmony between a man and the life he leads?

ー Albert Camus
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理系屋代表